ドリーム・トラベラー
ナイトタウンの反乱 前編
あるところに、“ナイトタウン”という騎士養成所を町にしてしまったような街があるという。
当時、騎士という職業が憧れである若者にって、この町に訪れ剣の道を目指す事は一つのステータスとなっている。
日夜騎士を目指す者達が訓練に励み、耐えられぬ者は一人、また一人と淘汰されていく。
“表向き”は……そんなどこにでもあるエリートコースであった。
裏の顔、それは世界を手中に収めようと暗躍する者達で構成された集団であった。
若者連中はそんな策略の駒にされようとしている事など知らず、ただ訓練に励む毎日。
だが、正気など長くは続かない。特殊な魔法により、徐々に徐々に彼らは理性をコントロールされていく。
無論そんな事を他の国王や領主は知るはずもない。
悪い事に、騎士を目指そうと各国から大勢の若者が殺到してくるので、人員には困ってすらいなかった。
しばらくし、ナイトタウンは近衛師団20、大隊50、中隊100、小隊300からなる完全な軍隊を作り上げるに至る。
そして、彼らは“力”という名の支配へのマーチをを始めた。
1:危険な依頼
俺は里中大介。一人旅の最中である。
しっかし、世の中と言うのは物騒な事この上なく、ついさっきも街中でひと騒動起こしてきたところである。
…………もっとも、よくいる不良と呼ばれる連中に世間の厳しさを教授しただけなのだが。
そして、最近のトップを飾るニュースとは、
『ナイトタウンが突如反乱を起こし、近隣の町を制圧中』
と言う中々に激しい動乱だった。
「反乱かぁ、やだねぇ…………」
などと人事のように思っていたら、
『魔道士様各位、急用なきかたは最寄の魔道士協会へ来られたし』
と言う張り紙が、デカデカと掲示板に出ている。
まぁ、俺も“形式的”にでも魔術士の学校に所属させてもらってた魔道士の端くれだし、卒業もしてしまった訳で、行く義務とかが発生するわけだ。まぁ、
すっぽかした所で誰が文句を言うわけでもないし…………暇だし。
と、言う事で俺は今魔道士協会の会議室にいる。
魔道士協会に行ったら会議室へ行くように言われ、行ってみるとそこにはすでに十数人の魔道士が来ていた。
席について待つ事10分ほど。慌てた様子の評議長がやってきた。
「私がこの街の評議長を勤めているアレックスと言うものです。本日は急な呼びかけに集まっていただいて感謝します」
評議長は、重々しく話し始めた。
「ご承知のとおり現在ナイトタウンにて反乱が起こり、近隣の町を襲撃、これを制圧しています。
相手は我らと話し合う様子も無く、交渉の余地なしと判断されています。しかし、ここで問題が発生しました。
ナイトタウンにも魔道士協会が存在し、そこの評議長が現在囚われの身となっている事が判明しました」
「だから、何だよ」
魔道士の一人が野次を飛ばした。
「ええ、我々魔道士協会も兵士の教育の一部を担っている都合上、魔道士協会全体として黙って見ている訳にいかず、これの鎮圧に乗り出しています」
「とどのつまり、お前らも暇だったら手を貸せって言いたいんだろ?」
俺が言った。数人がこっちを見る。
「ま、まぁ、簡潔に言えばそうなります」
会議室にため息が起こる。
「それと……」
評議長が言った。
「評議長を救い出した方には、いくらかの賞金を払う用意があると本部が言ってました」
一瞬会議室が張り詰める。
なるほど、先に人質を抑えて盾にされないようにする気か。
しっかし、ここに集まった連中は、かなり血の気が多そうだ。こりゃ全員ナイトタウンに乗りこむかな・・・。
「すいません。もしかして里中さんじゃありませんか?」
「――― は?」
声をかけられたのは食堂での事。
こっちに近づいてくるのは魔道士スタイルの少女が一人。
「里中大介さん、ですよね?」
「そうだけど……」
「やっぱり、……さっき街中で危ない人達と交えてるところ見てまして、協会でも」
ほう……、
「それで、なにか用?」
彼女は俺の向かいに座って言った。
「私はアリス=レイワードといいます。お願いです!一緒にナイトタウンに行ってください!!」
「ぶっ!」
思わず飲んでいた紅茶を吹いてしまった。
「私の兄がナイトタウンに行くと言ったのが3年前。…………」
とりあえず、彼女を席に着かせ、気を落ち着かせる。
そして、彼女はゆっくりと語り始めた。
「始めはなんの問題も無かったかに思えたんですが、この間届いた手紙に妙な事を書いていたので…………」
「その手紙って?」
「これです」
彼女は、懐から1通の封筒を取り出した。
手紙の内容はこうだ。
『アリス。大変な事が起きた。もうすぐ反乱が起きるだろう。そのときになれば、もう俺は帰る事は出来ない。
最近になって、体が言う事を聞かなくなってきた。原因は不明だが、何だか嫌な予感がする。
…………
最後に、この手紙を見てから俺の事を見つけたら、間違いなく殺して欲しい。
もう手遅れだ。逃げる事はできない』
…………
「文体が滅茶苦茶だな」
「確かに滅茶苦茶ですけど、それより兄が私に殺せだなんて……」
「穏やかじゃねぇなぁ、こりゃ。……で、どうする?それでも行くのかい?」
「兄が私に来てほしくないのは分かります。でも、兄の真意が知りたいんです。それに……、できるなら兄を救いたいんです」
彼女は懇願するように言った。
「お願いします。お礼ならいくらでもしますから、ナイトタウンに来てもらえませんか?」
「…………」
名が知られている事は良い事ばかりではない。
今に始まった事じゃないが、様々な依頼を受けている中で、こんな事件に巻き込まれていい感じで終わった事がない。
でも、だからといって断ってばかりいたんじゃプライドってもんがあるし……。
「しょうがない、行ってやるか!」
彼女の顔に笑顔が浮かんだ。
2:夜襲
ナイトタウン――別名、騎士養成場。
山と山に挟まれたこの町は、やたらとだだっぴろく作られている。
中央に城。それを囲むように家々が軒を連ね、大きさも様式もまちまちで節操がない。
ロードの名は、通称キング。本名は不明。
マジで謎の多いところだが、その養成所の厳しさと周囲からの評判でかなりの人々が集まってきている。
しかし…………
今現在、そこは戦場の発端の町。
近隣の町はすでに制圧を受け、徐々にそして確実に魔の手を伸ばしつつあった。
今俺らはそのナイトタウンの近くで、まだ制圧の範囲外の街で待機していた。
ここからナイトタウンまでは約2日。
ここから一気に、勢力範囲の中へと入っていくので、ここで色々食料を確保せねばならない。
この日は宿に泊まって明日へ備えようと思ったのだが…………、
世の中、やはりそううまくは出来ていなかった。
ワァァァァァァァァ〜〜〜!!
深夜、いきなりの時の声に驚いて、飛び起き外を見れば、そこらじゅうから火の手が上がっていた。
「まさか、夜襲かよ!?あいつら…………」
ドンドン!!
ドアが乱暴に叩かれた。
「大介さん!!大変です、大介さん!!」
アリスだ。扉を開けると切羽詰って飛び込んでくる。
「大介さん!夜襲です!早く逃げないと」
「ああ、俺も今そう思ってたところ」
慌てて荷物をまとめて外へと飛び出した。
外では町人達が逃げ惑っていて、ちらほら兵士の姿が見えている。
「こっちへ!」
アリスの腕をつかんで、街の外へと走る!
「待てぇぇ!」
後ろから敵兵士が何人か追ってくる。
俺は、持っていた発光弾のピンを抜き、後ろへ投げる。
カッ……!!
強烈な光が、兵士を襲った。
『うわっ!?』
兵士は光に目をやられ、俺達は無事に町を抜け出せた。
翌日、俺らは一路ナイトタウンへの道を急いでいた。
やっとの思いで、遥か遠くにナイトタウンの城が見えるところまで来たわけだが、
「……完全に破壊しやがったな、連中」
「ひどい……」
そう、そこには確かに村があったという痕跡があった。
しかし建物は完全に焼け落ち、そこら中に、白骨と化した村人が俺達を出迎えていた。
「状態からしてもう1月近く経っている事になるのか……。全く」
今日はもう日が傾いてしまい、アリスも疲れているようなのでしょうがなくここで野営になりそうだ。
だが……、
「やっぱ、このまま先には進ませたくないようだな……」
「え?」
その時、下に転がっていた白骨が動き出した!
またたくまに、数十体のスケルトンが二人を囲んだ。
「まったく……」
俺はコートの後ろからマシンガンを取りだし、乱射した!
ガガガガガガガガ!!
面白いようにスケルトンが吹っ飛んで行く。
「メガ・ブランド!!」
ドガァァァァーーン!!
とどめに一発大技で吹っ飛ばす!
「はぁぁ……」
今の戦闘を見てアリスはため息をつく。
「おい!小細工はいいからとっとと出て来い!出てくりゃその粘ついた脳みその通気性をもう少し快適にしてやるぜ?」
自分で言ってかなり悪役な一言に、
『ほほぉ、面白い物を持っているな……』
声と同時に、焼け落ちた壁の向こうから男が出てきた。
「しかし、この……グハァッ!?」
問答無用の一発がそいつを地に沈めた。
「ふ、私を捕らえても何の得にもなりませんよ」
威力を弱めた魔力弾のダメージから早くも回復した男は、縛られたまま言った。
「ほざけ三下。なんで俺達が来た事を知っていた?」
「は、知らんのか。魔道士協会で来そうな奴がいたんでね、通るならここしかないと張っていたんだよ」
「……じゃなにか?2日もここにいたっての?」
「その通り!」
「じゃあ、ここを通らなかったらどうなってたんだ、お前」
訳の判らん理論に、明確なツッコミを入れてやる。
「…………ふ」
額の一筋の汗が回答を物語っていた。
「タダの馬鹿だな。ま、いいか。とりあえずあんたはここに捨てて行くからそのつもりで」
「な、ちょっと待てぇぇぇ!人をこんなところに放って行くのか!?」
「2日いたんだから1週間ぐらいがまんしろ」
「お……!」
ジャッ!
突如、烈風が襲ってきた。
「つ……!」
一瞬早く俺はアリスを抱えて飛んだので無事だが、
……ゴトン。
その風は名も聞いていなかった襲撃者の首をたやすく切断した。
「誰だ!」
『ククク……』
含み笑いがあたりいちめんに響いた。
『実に不甲斐ない生き物だ、人間とは。ククク……』
すぅっ、と目の前にそれは現れた。
「ひっ!?」
アリスが小さい悲鳴を上げた。
それは完全にこの世の者ではなかった。
そう、魔族。
3:魔族の介入
そう、それはトカゲの化け物と言っていいほどの魔族。どれほど強いか知らないが、油断はしないほうがいいな。
「魔族……。なんで魔族なんかがここにいる」
「知る必要はない。なぜなら……」
「『なぜなら、おまえ達はここで滅びるのだから』ってか?! ボゲが!!」
言い放って銃を発射した。
しかし、
ババババババババ!
確実に、全弾命中!
しかし、
ゾワッ……
いやな悪寒がしてとっさに右に飛ぶ。
ジャ!
その脇をあの真空の刃が通りすぎる。マシンガンを真っ二つにして。
「ち……」
「なかなか、いい玩具だな。少し、かゆかったぞ」
ガンスモークの煙幕からほとんど無傷の奴が姿をあらわした。
「さて、どうしてや……」
ドン!
今度は盛大に音がした。
「ゴアアァァァァ!!?」
さすがにこれには悲鳴をあげる魔族。
その左腕が吹っ飛んでいた。
「き、貴様……まだ」
「悪いな。あれは対人間用でね。コイツは対魔族用だ」
そういって、にぎったデザートイーグル50AEを見せた。
「どうよ、かゆみを取ってやったんだ。感謝の一つも無いのか?」
「おのれぇ!」
ひるまず魔族は、俺に向かってくる。
―――バカが。
もう一発どデカイ音がして、今度は右腕が無くなっていた。
つんのめってうずくまる魔族。
「魔族ごときが俺にちょっかい出すなんて……」
うずくまる魔族の脳天に銃口を向け、
「十万年早ぇんだよ」
一発。それだけで頭が砕け散る。
魔族は頭部を失って風に溶け、消えた。
「不甲斐ねぇ魔族だ……。 ?」
ふと、アリスを見ると耳を塞いでうずくまっていた。
「大介さん。……それ、うるさすぎです……」
どうやら耳が聞こえず、今のシーンは見なかったらしい。
そのほうがよかったけど……。
その日は場所を移動し、翌日に備え眠る事にした。
「…………」
里中は一人、眠れずにいた。
(なんで魔族が出てきたんだ……?たかが人間の反乱に……)
里中の頭の中で、様様な考えがめぐる。
翌日、二人は一路ナイトタウンへと向かって行った。
−
To be continued−
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