二人の天使

           サリナサイド

 

 

  6・意外な真実

 

 眼下に城下を望む丘の上にあたしは来ていた。少なくとも近くに人影はない。あたしは横になって日の傾き始めた空を見る。

「ヴァンパイアかぁ……。いきなり討伐の手伝いしろっていわれてもなぁ」

「まぁ、そう言ってくれるな」

 ――!!?

 あたしは跳ね起きると一挙動で銃を引き抜くと声の主に向ける……が、

 ガキンッ!

 あろうことか剣の鞘で銃身を押さえつけられた。

「ヒュー。あぶねあぶね……!」

 言いかけた声が詰まる。眼前に突きつけられたもう一丁の銃を見て。

「で、なんか用?ロック」

「……頼むからそれ引っ込めてくれ。シャレになってないし」

 

「ま、俺達は仕事で戦ってる身だからな。文句は言えないのさ」

 騎士がどうのこうの言って、ロックはそう締めくくった。なぜかちゃっかり横に座り込んでいる。

「そういや、仲間がいるって言ったな。さっき」

「ん?ええ、だから?」

「いやぁ、クルドウェストあたりにいるのかなと思ってよ」

「クルドウェスト?」

 ロックはさも不思議そうにあたしを見つめ、

「おいおい、大丈夫か?それともここに来たのは初めてか?」

「まぁ……ね」

「たく…・・・」

 ロックは立ち上がって地平線の一点を指すと、

「こっから西に行った所に……!」

「そっちは南」

「…………」

 コンパスを見て言うあたしに絶句し、ビシィッっと右を指し、

「西に行った所にアルカス平原があって、その先にアルカスの森がある。

 そんでもってその向こうにクルドウェストがあるんだ。」

「ふぅん。それで、アルカスの森って何?」

 ロックはこっちを見て不敵に笑い、

「聞きたいかい?」

 なにやら訳ありのご様子。

「伺いましょうか?」

「んじゃ、晩餐が終わったら説明してやるよ。城に来な」

 そう言い残すと転移呪文で帰ってしまった。結局何が言いたくて来たんだろうか?

 

 

 夕方、城での晩餐会に呼ばれた私は私服のまま出席せざるを得ず、かなり睨まれた。

 しかし王を初め、遊撃師団総隊長と近衛師団隊長に囲まれていては何も言えるわけも無かったが。

「失礼ですが、ちょっと中座させていただきます。」

 ロックが突如そう言った。

「あぁ構わんが、どうした?」

「ちょっと彼女にアレを見せようかと思いまして」

 ぐふっ……!

 アレックスが噴き出しそうになった。

「アレか……。よし、私も行こう。アレックス、後は任せる」

「は……はい!」

 なぜむせたのか分からないが、そんなに重要なものを見せる気なのだろうか。

 来賓に軽く挨拶をしてあたし達はホールを後にする。ロビーに入ったところで、ふと何か妙な感覚が襲ってきた。

「……ん?」

 辺りを見回す。周りの柱、階段、吹き抜けの上段部分。煌々と照らし出されたロビーだが……、

「どうした?」

 ローランドが声をかけてくる。

「いえ。なんか……」 

 あいまいに答えて後に続いた。階段を上り、まだ気になって後ろを振り向いたその時、

「こ、これって……!!」

 思わず声を発した。しかし、出したくもなる。ロビーの床一面を覆う絵画が描かれていたからだ。床自体に。

「あぁ、これか?ビビッたろ。ちょっとしたもんだな」

 ロックはそういうが、あたしにしてみればそれでは済まされない。天使だ。しかし、まとう鎧は漆黒。その羽までも黒い。抱く剣はオーラを発するように燃えている。強烈な波動はこの絵か!

 魔方陣は確かに魔力の派生点になる。しかし、誰かが意図的に魔力などを込めることでそれ自体が魔力を持つ物が多数あるのも事実だ。たとえばこの絵のように。

 誰が描いたかはこの際置いとくとして、これを描いた人は相当の術者だったに違いない。

「“左手に抱く無限の闇”の図か。初めて見る者には強烈かも知れんな」

「左手に抱く、無限の闇……」

「こことクルドウェストにももう一つある。向こうは“右手に光る希望の光”の図、というがな。」

「…………」

 もはやこの時点であたしは声も無かった。

 

 

 机の上にドーンと置かれたのは黒革張りの分厚い本だった。

3000年前のヴァンパイア達との戦争の記録さ」

 ロックは得意そうに語る。鍵がかけられた厳重な物だ。王は懐から一つの鍵を取り出すと軽く鍵をあける。

「ま、深刻に考えなくても構わんよ。」

 ページが開かれる。最初に開かれたのは世界地図だろうか。

「昔、この地は混沌としていた。統治する者もなく、小国ができては消えるような世界だった。

 しかし、その内にヴァンパイア達が介入してくるようになってな、そのうちに国のほとんどを占領してしまったんだ。」

 

 次に開かれたページには、また地図があったが、中央付近に染みのような物が。これが占領された領土!?

 

「やがて、ヴァンパイア達はヴァンパイアロードを核として成り上がり、人間達はそこへは近づけなくなった」

 ロックが言う。

「そこは当時『フォレストオブヘル』と呼ばれるほどに闇が満ちていた場所だ。誰も近づこうとしないし、近づく気にもならなかったしな。」

「ま、その通りだ。しかし、昔の知恵者が妙案を出した。森が邪魔なら切り開け!とな。誰も賛成などしなかったが、段々と支持者が増えて行った。手段など構っていられなかったからな。

 そして、開墾が始まった。」

 

 次に開かれたページには木を切る民衆が描かれている。

 

「森を切り開くと同時に人間達は武器や、魔法の開発にも着手した。その工程で様々な武器や禁呪が生み出された。

 そして、数年後。今のアルカスの森ぐらいまで伐採が迫ったとき、ヴァンパイア達は報復に出た。」

 

 開かれるページ。そこには戦争の図が。

 

「人々は戦った。そして、伐採のかいもあり、ヴァンパイア達は数を減じていった。しかし、ヴァンパイアロードははるか谷の底。地底に兵を送るかどうか思案したそうだが、必然的にガードも固くなる。機を待つことになったが、ひとりだけ、血気に逸って単身飛び込んで行ったばか者がいてな……」

「名はラスベル。ヴァンパイアに親を殺されたという青年だ。奴は単身ヴァンパイアの洞窟に入り込み、ついには魔宮まで行き着いちまった。だが、奴だけではさすがに敵うはずもなく、傷つき追い詰められる。」

 唄を歌うように語るロック。少しあたし達は少々引いたが。

「その時、光が弾け一人の少年が魔宮に飛び込んできた。そいつはヴァンパイアロードを簡単にねじ伏せ、封印しちまったそうだ」

 

 ローランドが引きながらも、ページをめくる。そこには一人の少年と青年が描かれている。

 

「封印を施したそいつはラスベルに言った。

 『私はコイツを封印できても滅ぼす技術を持っていない。もし、私と同じく“天使”に魅入られたものが来たならその者に頼め。そしてその時、わたしは戻ってくるだろう』と。

 そして、そいつはラスベルに二本の剣を授けた。白と黒の剣。『右手に光る希望の光』、『左手に抱く無限の闇』それぞれそう呼ばれている。

 もし倒すのなら一度封印をとかないといけない。それが絶対条件だ。と言い残してその少年はいなくなったそうだ。」

「天使!?」

 あたしは思わず声を上げた。

『……は?』

「あ、なんでもないなんでもない」

 むろん何でもないはずがない。天使に魅入られた者達!?あたし達のことか!?

「……左手に抱く無限の闇、右手に光る希望の光、……か」

 その瞬間、頭の中に妙な感覚が来た。

「…………」

 無言で周囲を見渡す。むろん何もない。

「勘がいいみたいだな。」

 ローランドが言う。あたしは彼を見た。

「そのフレーズを言うごとに力ある者の脳裏に響くんだよ。剣の波動が」

「まさか……、この城に……?」

 あたしは声がかれているのが分かった。その能力者とやらが残した剣が“この城に眠っている”!?

「ま、この話は、騎士連中の中じゃ噂でしかないがな。」

「って,…・・・マジにあるんですか!?」 

 ロックが逆に声を上げた。……コイツ知らなかったのか!

「探してみろ。見つからん。

 古の賢者が城自体に術を施して道を閉じた。」

「なるほどねぇ……」

 ヴァンパイアロードを倒すためにその能力者の残した剣がいる、か。 なんかめんどそうだなぁ。

 

 ―To be continued―

 

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2002/03/29