―二人の天使―
マリーサイド
4・クルドウェスト城
マリーがついていった城はそこから歩いて15分と立たないところにそびえ立っていた。
シンメトリーで構成され、城の城壁は高く、堀も深い。優雅さと防御の高さを見ただけで分かるほどだ。
「跳ね橋をおろせ!!」
門兵が中に向かって叫ぶと、あがっていた跳ね橋がゆっくりとおりてきた。
3人は中へと入っていき、門をくぐる。
と、とたんに見えたのは花畑だった。
通路以外の全てはほとんどが花畑で占められていたのだ。・・・結構世話が大変そうある。
「・・・すごい」
マリーがつぶやいた。
「分かりますか?」
フレイア女王が答えた。
「私の発案なんですけど、花の並べ方は他の画家の皆さんが考えてくださったんです。」
眺めているうちにも、数人の画家や、メイドの皆さんがあくせくと花の手入れに追われていた。
「さ、中へ参りましょう」
城の2階。
花畑と城下町を一望できるフレイアの私室である。
「お口に合うかどうか分かりませんけど、私が焼いたものです」
と出してくれたのがクッキーである。
しばし、紅茶と共にクッキーを食べる二人。
「平和な町ですね」
マリーが言った。
と、フレイアはカップを置いて、ため息をついた。
「そうでもないんですよ」
「え……?」
「国境の向こうのヘイルイースとは最近揉め事が多くて悩みの種なのです」
「・・・・そうだったんですか」
「いえ、お気になさらず。原因は分かってるのです。
ヴァンパイア。血の眷属。人間にも姿を変える彼らが私達を戦わせようとしているんです」
「・・・・・・・・・・・・・・」
マリーの頭の中で、計算が働く。
ヴァンパイアとて正面きって両国と戦う気など無いだろう。ああいう連中は元来、弱いものいじめが好きなのだ。
とすれば、何が効果的か。
両国を激突させ、疲弊させる。そうした後でゆっくりと入り込んでいけばいいだけだ。
しかも夜だけしか活動できないとなると、彼らのやりそうなことなど察しがつくというものだ。
それに、マリーも今までに何度と無くヴァンパイアと戦ったこともあるし、戦争関係の本も読んだこともある。――ま、この辺は趣味の範疇ということで。
「・・・大変なんですね」
「ええ、それにあちらのローランド様と調査結果を聞いたところによりますと、どうやら、あたし達の中にヴァンパイアが入り込んで裏工作をしているということが分かったんです。
・・・・・・信じられないのですが。」
――やっぱり。
「対策とかはしてるんですか?」
「対策・・・・ですか?
前までは国境は一緒になっていたんですが、兵達がいがみ合うようになってしまって、今は中立地帯を作っています。」
「もしかして、・・・・その中立地帯に谷とか森とか、ありませんか?」
「・・・・・・・?ええ、アルカス谷という谷があります。ヴァンパイアが群生しているとかで、両国の兵士の共同戦線が時々あったのですが、それが…?」
「中立地帯にしてしまわれたんですか?」
「しかたありません。向こうがやればいいという考えが出てしまって、そうするしか」
「・・・・・・・・・・・」
――そんな馬鹿な!そんな場所を中立地帯にしてしまったら、やつらの勢力を増大させてしまうことになるのが分からないとでも言うのだろうか?
マリーも馬鹿ではない。それくらいは考えることができる。
どちらにしろそこを放っておいたら奴らは確実に軍を作り、そのうちどちらかに攻め入ってくる。そうなると・・・・・。
「陛下。お願いがあります。」
「・・・・はい?」
「その谷へあたしを連れて行ってはもらえないでしょうか?」
「え、アルカス谷へですか!?」
さすがに驚く彼女。
「無茶です!さっきも言いました通りヴァンパイアが群生しているんです。それに谷へ行く途中の森にも盗賊が出るんです。
やめたほうがいいです!」
「お願いします。そうしないと大変なことになりますよ」
その台詞には、この国への被害の警告と、無理をしてでも行くと言う揶揄がこもっていた。
マリーが自分の意見を主張した瞬間だった。
フレイアは考え込み、そしてゆっくり顔を上げた。
「わかりました。そこまで言うならお止めはしません。
しかし、何をなさりに行く気なのか兵をお供させていただきます。」
「ええ、結構です。しかし、少なくともばてない人をお願いします」
いつに無く真剣なマリーであった。
数刻後、マリーの前にフレイアは一人の兵を連れてやって来た。
「この方をお連れください」
指名された兵はなんと女性だった。ロングの金髪で、冷徹と言う言葉が良く似合う表情をしている。身には動きやすい甲冑を着て、レイピアを持っていた。
「お初に。クルドウェスト第一師団団長を勤めますレイア・ヴァレンタインです。
よろしく。」
「簡単にばてない人を、ということで彼女に行って貰うしかないのです。
この国に二人しかいない『ソードマスター』の一人である彼女に」
「ソードマスター・・・・ですか」
「両国合わせて4人しかいない最強の兵のことをそういいます。
彼女はその一人なのです。」
「最強の・・・剣術士ですか?」
「正確には、剣術と魔術を極めた者がヴァンパイアを刈り続け、生き残った者に与えられるものです。
肩書き、と言ってしまえばそれまでです」
レイアが続けた。
「そうですか。ではお願いします。」
マリーがレイアと出て行ったすぐ後である。
「よろしいのですか?レイアを出してしまって。」
「ええ。あの人を守ってくれる戦力としては彼女が適任ですから。
それに彼女は指揮は苦手でしたからね。」
「そうですな」
そういわれて、最後の『ソードマスター』、ライアーはため息をついたのだった。
確かにマリー自身の戦闘能力は大した物だと認めたから、レイア一人が選ばれたのだ。
でなければライアーまで出張ることになる。
しかし、実際に守られる立場が逆転してしまうなどと毛ほども思っていなかったのだった。
−To be continued―